短歌 1967年 

5月20日

バナナ買いて 泪ぐむなり パラソルを さすも忘れて 吾妻橋渡る

稲荷町 なつかしきかな その昔 ここに生まれて ここに住みしを

どぶくさき 吾妻橋なり 過ぎし日に 祖母といくたび 渡りしかなと

5月21日

妹の墓参りせし 翌日に 夫と幼子 来る夢みし

バナナ買いて 泣きつつ渡る吾妻橋 パラソルさすを われは忘れし

妹の夫と幼子 訪ねきし夢見たるなり 墓参りせし翌日

バナナ買いて 涙あふれし パラソルを さすも忘れて 吾妻橋渡る

5月22日

妹の縫ひてくれたる格子縞のスカートはきて蒲田へ行きぬ

今ははや 形見となりし 格子縞のスカートはきて蒲田へ行きぬ

愚かなり 妹をはや失ひし 今となりてはかえすよしなし

5月24日

失いて知る 妹のいとしさよ 涙流さぬ日とてはなしに

5月27日

深紅なるバラ三輪の寄り添いて 一つの花の如くに咲けり

我が庭のバラ三輪 寄り添いて 一つの花に咲くぞうらやまし

三輪のバラ 寄り添いて 咲く様は 花簪の如く愛らし

三姉妹と 我は名づけし 我が庭に咲く三輪の深紅なるバラ

三姉妹と 我は名づけし 我が庭に 寄り添いて咲く 三輪のバラ

6月22日

年長の 我代わりたき思いかな 死に急ぎたる 妹よ許せ

幾たびも 涙の便り受け取りしに 我気が付かぬは 一生の不覚

妹の便り そこ此処にに置きて 今なお生きて おる如く思う

7月2日

妹に 面差し似たる少女立つ 物資欠乏の時代を思ふ

7月13日

新盆に 妹に会ふ夢みたり もの言わざれど いとしかりけり

生きてたのと 我妹の肩抱きぬ 新盆の日にみたる夢かなし

定めとは 思へどかなし 妹の散りたる若き 命思へば

8月28日

我がバスに 乗り込みて来し 妹の 肩しっかりと抱きし夢かな

墓参りせぬ 我を誘いに来るかな 昨夜みし夢 妹の夢

オーシイツク 鳴きいだしたり 妹の昨夜の夢を思いおるとき

10月16日

胸痛む日の多くして秋深し

秋くれば妹恋ふる日のつづき

10月19日

秋深し 妹恋ふる 日の多く

12月20日

ながゆえに 死に急ぎたるか 妹よ 姉の嘆きも 今はむなしき