短歌 1991年 秋

陽のにほひかすかにすなれとり入れし寝巻を雨の降る夜に着れば

わかし過ぎてたっぷりの湯につかりけりただそれ丈の今朝のしあはせ

嫌いなる尊氏なれど「太平記」みているうちにひかれゆくかな

ごきぶりの子が出て次はのみが出て腹這ふ読書なぜか忙し

哀しみはあの焼け跡にあかざつむ祖母の姿を思ひ出す時

もしもしとまだ云えずして祥平はもしバアチャンと我を呼ぶかな

ヒレカツの衣かたしと夫また入歯こわしてゆで卵食う

保育園でおぼへたりしか孫の言ふ「あめえよう」とは何処の言葉ぞ

愚かなる子ほど可愛と父云いき貧しき子ほど我は可愛い

ピーナッツ食べて入歯を壊したる 夫医者からマージャンへ行く

今の世は不思議なるかな細々と畑耕し億万長者

友人の電話の声があまりにも亡き友に似て驚かされぬ