短歌 1992年 春

飛行機の中で脇腹あな痒し東京の蚤つれて来しかな

機内食のこせしパンはもちかへり雀にやらむスイスの雀に

雲間より地表見えたり海底をのぞくが如くいづこの国ぞ

昔子が住みたる荒れしアパートを眺めに行きぬペルージアにて

後席でガバと口開けねる我を子に指摘されちょっととりすます

アッシジの教会めぐり墓めぐり人間の持つ心同じき

フィレンツェで亡き妹に夢で会ふ弾丸の如とびさり行きぬ

忙しいでせうと云って誘い来ることなき人ばかり我の正月

若い人いいねと云はぬ自分でも昔言われたことがあるから

押し入れに入らんとする猫めがけ座布団投げて追い払いけり