祥平は「手を叩きましょ」うたひをり朝の機嫌のよき食卓で
今日こそは心優しくすごさんときめて又寝る布団かぶりて
疲れたる心地のすれば閉じた本開ける気もなくまた眼をつむる
御馳走さま云ひたるあとに祥平の大き泣き声す寝床できけり
妹が人無き苑にいばりするを待ちつつをれば鶯の鳴く
後悔をするときいたむ左胸右にも胸がほしと思へり
天敵と夫ゴルフをしてゐたり知らざりし間は平和なりしに
奥さんと夫寝言で言ひたりし人とのゴルフまた近づきぬ
愛すればこそ憎むなれ己が身に言ひきかせつつ今日も憎めり
ゴルフに行く夫吾より程遠く離れ寝てをりまた怒り湧く
我が心朝な夕なに苦しめるものを夫は妄想と呼ぶ
死にたしと思へどやはり生きたしと苦しむかかる我の生きざま
眠れたか夫此の頃毎朝の如くきくなりほろ苦きかな
夜遅く風呂に浸れば子は吾に声かくるなり確認なりと
蟹座なる夫が好む女たち不思議や蟹の顔をしてゐる
妹の倍の命を生きし我何ほどのことなせしよ今に
我が方に向きて眠ると誤解せり夫は肩に腫物できし
湯に飽きてヘチマで身体こすりけり心の垢もおとさんとして
我叩く子もまた病みている如し哀しかりけりあはれなりけり
夢でみしジャン・マレエこそさながらに我をなぐさむ化身仏かな