短歌 1992年 秋

祥平は「手を叩きましょ」うたひをり朝の機嫌のよき食卓で

今日こそは心優しくすごさんときめて又寝る布団かぶりて

疲れたる心地のすれば閉じた本開ける気もなくまた眼をつむる

御馳走さま云ひたるあとに祥平の大き泣き声す寝床できけり

妹が人無き苑にいばりするを待ちつつをれば鶯の鳴く

後悔をするときいたむ左胸右にも胸がほしと思へり

天敵と夫ゴルフをしてゐたり知らざりし間は平和なりしに

奥さんと夫寝言で言ひたりし人とのゴルフまた近づきぬ

愛すればこそ憎むなれ己が身に言ひきかせつつ今日も憎めり

ゴルフに行く夫吾より程遠く離れ寝てをりまた怒り湧く

我が心朝な夕なに苦しめるものを夫は妄想と呼ぶ

死にたしと思へどやはり生きたしと苦しむかかる我の生きざま

眠れたか夫此の頃毎朝の如くきくなりほろ苦きかな

夜遅く風呂に浸れば子は吾に声かくるなり確認なりと

蟹座なる夫が好む女たち不思議や蟹の顔をしてゐる

妹の倍の命を生きし我何ほどのことなせしよ今に

我が方に向きて眠ると誤解せり夫は肩に腫物できし

湯に飽きてヘチマで身体こすりけり心の垢もおとさんとして

我叩く子もまた病みている如し哀しかりけりあはれなりけり

夢でみしジャン・マレエこそさながらに我をなぐさむ化身仏かな