庭を見ておりし夫が真剣に梅の実七十つきしと云へり
人がみな飢えし時代に祖母われにおのれのめしを与へ給ひき
密教の儀式ならむかジャランジャラン正思影供(しょうみえく)にて打楽器響く
粉雪のしげき高野山夜の床熱き炬燵のありてうれしき
愛すればこと憎むなれ己が身に云ひきかせつつ今日も憎めり
何食はぬ顔して生きることできず追い詰められて苦しき日々よ
夜の明けることおそろしと思へり今日は何着て日をすごさんかと
眠れたか夫きくなり強き手が我が手にふるる時のかなしさ
爪切ってあげようかとのぞきこむ君はいつからそんなにやさしい
花めずる心は遠くなりにけりおどろおどろが吾が内に住む
おばあちゃんチューリップ咲いたと吾が手ひっく今朝見た花をまた見に行けり
旅行より帰りし人は晴れやかな笑顔で吾に挨拶をしぬ
あと何年生くるや知らずゴルフ狂許さむと吾思ふ十月
帰る子を待ちつつ米をとぎながら厨にある夜の如何に嬉しき
スイスより帰りたる子が家磨きこれでは毎年帰ると云へり
父の服のチョッキに書き給ふ光太郎の「美もっとも強し」祈りをり拝す