短歌 1994年 夏

今年また母の形見の手袋をつかえることのうれしかりけり

大きなるおもちゃの時計もちてきて吾に起きよと孫は言ふなり

寝ころびてテレビを視れば寄り添いて共にテレビをみている幼

子と孫と共にくらせし楽しみを気づかず過ごししことをくやみぬ

排便のあとの始末も出来ざりし孫と別るる日も遠からじ

放牧の牛数頭が自動車の前をゆうゆうと横切りてゆく

草を噛む毎に鳴るなり放牧の牛の首より響く鈴の音

夫の顔少しみたくて屏風を僅かにずうらし吾は眠れり

てこずらす事多かれば疲れたる夫の顔に目脂すら見ゆ

いびきかき眠れる夫はうらやまし吾は起き出て牛乳をのむ

うまいもの宵に食へよと義母上の遺言なれば今も守りつ

ゴルフとは一期一会の楽しみか帰りし夫のこぼれる笑顔