もう少しと催促したる夫の酒断りし後心地よからず
宇野千代の死をきき吾は淋しかり心の支へとなりてゐたれば
借りてきたる書籍の臭ひ好ましく我顔つけて幾度もかぐ
おとづれし葡萄祭のアルボワにルイ・パスツールの生家見出す
公園の大樹抱きてその精をわたしの心にひき入れんとす
中世の大寺院をば登りつめラインの流れ眼下に眺む
雨降れば氷河の雪をとかすなりスイスの川は碧く冷たく
膝病みてのろのろ歩き杖ほしと思へど我慢も少し我慢
気が付けば虫の音きかぬ夜となりぬ初雪降りしと子の便りあり
痛き足ひきずりつつも友の墓おとずれんとす今日の吾かな
通夜に行きし夫の帰りを待ちわびて鍵閉め塩を用意するかな
離れ住む子の帰りきて飛ぶように一日一日が過ぎてゆくかな
持ち時間いくらあるやら知らずして日々おくりいる我ら夫婦は