短歌 1996年 春

月日たち絵にのみ残る桃源郷父の描きし山里の村

東京で一番うましといふ蕎麦を夫は友と食べに行きたり

マージャンに夫は出掛け我一人昨夜(きぞ)の残りのふろふきを食ぶ

子の便りアイルランドの海辺にてアシカ見たりと感激記す

外国へ戻りゆく娘と多摩川でビルの合ひ間に冬の富士見る

子の土産なりし魔笛のオルゴールきけど会へるはいつの日のこと

挙式終はり帰る新幹線の窓右に左に満月うごく

いる筈はなきと思えど電話することもありけり淋しきときは

酒飲みて覚めたる後のさびしげな夫の表情心に滲みつ