短歌 1997年 夏

うたた寝の我が子の髪にいく筋か白きをみれば苦労しのばる

陽のささぬ我が家の庭に野菫の群れなして咲くうれしきことよ

夕闇の長野の森の空間にヘールボップ彗星きらめくを見ぬ

一夜あけ薔薇一せいに咲き出しぬ我が眼うたがふよろこびにして

起き出でて雨戸を繰るは楽しけれ今盛りなる薔薇の花ばな

朝の間を夫に寄り添ひ顔そりてもらふひとときわれの倖せ

仏壇に母の日のカードとカーネーションそなへて在りし日をしのびたり

夫の留守にナッキンコールにききほれて空豆茹でゐしことも忘れぬ

草取りを怠りしかばどくだみの十字の花は庭一面に咲く

思ふことうまくしゃべれぬもどかしさいつから吾は人魚になりし

膝病みて体操の時よろめくを恥ずかしく思ふ如何にかくさん

久々の友の便りにそそくさと夜のポストに返事をはこぶ

父母に甘えるころにもどりたし何故人間は年をとるのだろう

夕食の前の散歩に森に行き栗鼠見つけたり木の間がくれに

子に会いに行きたる旅のひと月もあっといふ間の出来事となる