短歌 1997年 春

運動会富士見祭の半纏をはおりし孫の踊り愛らし

今は遠き思ひ出なれど子や孫と車で過ぎし小夜の中山

ビール湖へ花火見に行き帰り路はりんご種のみてほろ酔ひになる

スイスの公園の池の辺に立ち鴨たちにパン屑なげし日課なつかし

子に会ひに行きたる旅のひと月もあっといふ間の出来事となる

日照を奪はれたれど吾が庭に白とピンクの薔薇二つ咲く

幸いの時の手紙は捨てきれず出して又読み又しまふなり

ボロボロとなりし心に父母の写真抱きて春雷をきく

病院を抜け出したりき白銀に月冴ゆる夜ジフテリアの我

録音の音かもしれずいづこかの家の庭より鶯きこゆ

ジュネーブで買いにし蒼きリュック背負い何処にでも行く此の頃なりき

あと幾日共に暮らせる日は幾日夜寝るたびに吾は思へり

買い物に出ればタンポポそこここに咲きて知るなりすでに春なり

吾妻橋橋のたもとで二人の子うつせし想ひ出今もあざやか

嫌いなる人の夢みて目が覚めしいまいましさの残る朝かな

ぼんぼりの如くたわめる八重桜かつて我が家に咲きしことあり