短歌 1998年 夏

水くきのあともうるはし俊成はいま群衆のただ中にあり

遠き日のうたびと見むと人々は慕ひ集ひてため息をつく

飛行機の中の雑誌にクーパーの破りたき程よき写真あり

アベックの隣に座り何となく居心地悪き空の旅かな

三等賞懸命に走る孫をみてそれでもうれし老いの此の身は

幼子もいつの間にやら少年の面差しみせて運動会終わる

つり革につかまり居眠りする人に席をゆづりてホッとするなり

コバルトの空明けそめし病院の今日の退院思ふ嬉さ

今日こそは整理せんとて押し入れを開けたがやはりまた閉めにけり

杖つきて歩けばスイスの山歩き思ひ出しけり少し楽しき