短歌 1999年 春

たまひたる人を偲びて曇り日も我は雨傘つきて歩めり

雨傘を杖のかはりにつきし時ほのぼのとして嬉しかりけり

朝顔の種はやばやと取りし夫かびが生えたと我に言ひけり

東京で暮らせし亡き母鳩バスで見物したきと云ひし事あり

なくしたる眼鏡出てきたうれしさにチョコレート食ふ二つ三つ四つ

絶食をつづけて死にし猫のことときどき思ひあはれでならぬ

孫来れば仏壇の前に机出しその上にのり鉦(かね)を打つなり

田舎の子なる顔つきの少年が米届けに来て釣り間違える

音楽を聴くことさへも罪の如夫病みたるときに思へり

一日が苦難に充ちて終わるとき我はきくなりナッキンコール

することは山ほどあれど何をする気にもならずに寝たり起きたり

よく眠りたりし朝のうれしさよ誰に話さん何を話さん