くちなしの香りただよう家の角杖をつきつつゆるゆると行く
アダモききその歌声にひたりつつ痛める足の憂さを忘れぬ
ひよどりが梅にとまりて見回せりリハビリをする我の窓辺に
子が我に明日のシチューを作る夜部屋の隅にてこほろぎの鳴く
ふうわりとノートに着地せし蜘蛛よ小さな身体で我おどろかす
美容院より帰りし娘秋なれば長めのカットと云ひてほほゑむ
雨強くなりつつある夜子の帰り遅きを案じ食べず待ちをり
症状をきく看護婦はきびしけれど寝るとき笑顔でお休みなさい
眠れざる病院の夜同室の人のいびきにあせりいるなり
癒ゆる日を夢にみるとてしょせん夢現に歩けぬ足をなげきぬ
子が我に送りてくれしシクラメン篝火の如く部屋に輝く
歩行器でよろけ倒れておもいきり路上で頬を打ちしことあり