短歌 2001年 春

くちなしの香りただよう家の角杖をつきつつゆるゆると行く

アダモききその歌声にひたりつつ痛める足の憂さを忘れぬ

ひよどりが梅にとまりて見回せりリハビリをする我の窓辺に

子が我に明日のシチューを作る夜部屋の隅にてこほろぎの鳴く

ふうわりとノートに着地せし蜘蛛よ小さな身体で我おどろかす

美容院より帰りし娘秋なれば長めのカットと云ひてほほゑむ

雨強くなりつつある夜子の帰り遅きを案じ食べず待ちをり

症状をきく看護婦はきびしけれど寝るとき笑顔でお休みなさい

眠れざる病院の夜同室の人のいびきにあせりいるなり

癒ゆる日を夢にみるとてしょせん夢現に歩けぬ足をなげきぬ

子が我に送りてくれしシクラメン篝火の如く部屋に輝く

歩行器でよろけ倒れておもいきり路上で頬を打ちしことあり