短歌 2002年 春

この夏の暑さと競い合う如く赤赤と咲くのうぜんかずら

耳遠くなりて幾度もきき返す我に夫は飽かず答うる

本読みつつ氷下魚(こまい)をつまみいる夫は口寂しかるためにやあらむ

隣人は垣根越えたる柿の実をおとりなさいと夫に云いけり

夕刊を待ちきれなくてまあ夫は家の角にて傘さして立つ

食事後ふいと消えたる夫なり煙草を吸いに何処に行きし

夫我の医者の梯子を見送りぬ心療内科そして整形

白髪になれば口紅つけるべしをみななりしをわからすために

初恋は片思いなり六十年たちたる今も心ときめく

止められし煙草かくれてのむ夫の気持わかれど我は哀しき

朝早く買いに行きたり薬局に煙草嫌いになると云ふガム

冷蔵庫開けて取り出すもの忘れ閉めてようやく思ひ出すなり

カランコエ蕾ふくらみこの冬をよく耐えしよとほめてやりたし

裏庭に咲く白椿見に行けば紫すみれが群れなして咲く

退院しもどりし庭の沈丁花蕾ふくらみ我を待ちいつ

雪の上にパン屑まけば争いて鳥等は来たり食べつくすなり

テフロンのこげつっきし鍋を洗いつつナッキンコールのプリテンド聴く

診療日即入院となりし夫梅の満開みられずなりき

ストーブのつけ方覚えぬ我は夜ガウン着たまま布団に入る

ゆで卵鮭入りおむすび我の分おいて出かけり子はハイキング

カツサンド苦しくなるまで食べにけり二切れ位残せばよきに

夫のなき余生になるとは思はざり誰に伝へん心の傷を

死ぬること怖くはないと云いながら子の運転は一寸遠慮す

晩年は鬱でありしか我が母はしゃべることなくただ微笑みし

視力落ちこれより強きを求めればそれより上はなきと眼鏡屋

女子高生もも出しルックでモモくみてケイタイあそびユウユウ降りに行く

鬼の如白く塗りたる爪伸ばし若き女は恐ろしきかな

おとなしげジーパンはきし女高生座るやいなや鏡取り出す