短歌 2002年 秋

回覧板とどけに行けば彼の妻のエプロン着けて隣人の出る

医師云いし三か月とは何時までか恐れ戦きカレンダー繰る

立会いのもとに煙草を吸う許可を得しともしらず止めしを悔いぬ

「太陽の如きが口に飛び込みぬ」夫の言葉は何を意味する

音楽も悩めるときに聴くときは胸にこたえずただ鳴り響く

苦しみと闘いている君のため吾叫ぶなり痛みをうせよ

苦しみて管にて痰を取りている夫より手紙「無理をするな」と

吾が夫の笑顔がよきとわが友にいわれし事はいつも忘れず

君の手の跡のつきたる糠床にわれかきまぜて大根漬けぬ

枯れたりと思いて捨てしムスカリは青き花つけ次次と咲く

蝋燭の燃え尽きるのを見ることは夫の最後の日の如くなり

自分だけジャンプする如死んでいく夫憎しと思ふときあり

病院へ二人で通った近道を今日も一人で通う私は

蚊がいると云えばベープをつけてきて我がかたわらに蚊をさがす子よ

おばあちゃん何処にいるのと泣き声で孫はきくなり電話に出れば

高音にステレオきいてうるさいと苦情いふ人だあれもいない

重き足ひきずりつつも洗濯を干し終わりし時夕立ちのくる

目覚めたるときの淋しさ彼はもう何処にもいないとしみじみ思ふ