短歌 2003年 秋

友寄りて来れば我の腕とりて一緒に歩く暖かきかな

日光のホテルの庭を夕食後そぞろ歩めば満天の星

耳遠き我にはあれど大谷(だいや)川せせらぎ聞きつつ眠りに落ちぬ

日光の石の階(きざはし)高く高く子の腕つかみおののき登る

日光のホテルで飲みしこけもものジュースの味は忘れざるかな

冬薔薇の一輪が咲く北風に折れんばかりにゆすぶられて

日だまりに椿一輪色づきぬ花待ち遠し花待ち遠し

団扇もちおどる小さな女の子片足上げる仕草愛らし

いつの間か本降りとなりシクラメンつめたかろうと部屋にとりこむ

黙黙と我の眼鏡をみがきたる夫でありしが今は在らずも

病院でふと眼開ければ我見舞う夫ほほゑみて我を眺むる

草深き庭おとづれし黒猫はやもりみつけてじゃれまろびゐる

台風にうち倒さりしベゴニアは健気に立ちて花咲かせをり

売れ残りなりし里芋買ってきて皮むくときの腹立たしさよ

その身体パチパチ叩き気合入れ取り組む前の意気よき力士

アダモ聴き手を打ち鳴らし部屋中をぐるぐる歩き廻る我かな

近づきし火星なれども天体に興味を持ちし夫は今なし

先生は歩け歩けと云ふけれどひょろりひょろりとこけそうになる