短歌 2005年 秋

幼き日チンドン屋の後ついて行き「あんた何処の子」きかれて泣きぬ

アイス手に持ちて寫眞がとれざりきモンマルトルの階段の上で

遅くなり御飯はいいと子の電話そのとき震度五の地震の来る

我が庭に孫が風鈴下げくれぬ涼しき音色に心慰む

今のことすぐ忘れ去る悲しさよ日に幾度も新聞を見る

明け近く亡き夫の夢みたり優しき笑みを吾に残して

夢にたつ人やさしかり待つことも待たるることもなき現にて

久びさの友の便りがうれしくて一人声出し読んでみるかな

夕暮れの散歩に出れば一瞬に暗くなりたり立ち往生す

こほろぎが何処かで鳴いてるテレビ消し耳をすませばリリリリリリと

イチローは野武士の如く精悍で新聞切り抜き日記に貼るなり

すれ違い朝の散歩で挨拶をすればかつての友達なりき

切り貼りの障子貼るのによろめきて一つが三つの切り貼りとなる

黄色眼の黒猫我が家の塀を行くかわいらしけり思はず手をふる