短歌 1998年 春

獅子舞の歯を打ち鳴らす景気付け暗き世相も明るくならん

第三の男ききつつ吾が夫は風呂わかしおり寒き冬の日

雨戸くれば白き椿の花一つ新しき年ことほぐ如し

かへり行く娘見送る雨の駅何時また会ふやわれ立ちつくす

節分の豆を撒かむと西の窓開くればおぼろの三日月かかる

豆つぶの如き蕾をびっしりと持てる日陰の梅いとしかり

なくせしとあきらめてゐしネックレス古きバッグより出でて嬉しも

ある時は捨てに行きまたつれかへりなどしたる猫おとろへてきぬ

我が留守に夫買ひたるレシートがテーブルにありハエトリリボン

猫老いて飼い主も老い淋しさのいやます家となりにけるかな

父と我 三月十日の空襲を二階の廊下で息ひそめみぬ