たまひたる人を偲びて曇り日も我は雨傘つきて歩めり
雨傘を杖のかはりにつきし時ほのぼのとして嬉しかりけり
朝顔の種はやばやと取りし夫かびが生えたと我に言ひけり
東京で暮らせし亡き母鳩バスで見物したきと云ひし事あり
なくしたる眼鏡出てきたうれしさにチョコレート食ふ二つ三つ四つ
絶食をつづけて死にし猫のことときどき思ひあはれでならぬ
孫来れば仏壇の前に机出しその上にのり鉦(かね)を打つなり
田舎の子なる顔つきの少年が米届けに来て釣り間違える
音楽を聴くことさへも罪の如夫病みたるときに思へり
一日が苦難に充ちて終わるとき我はきくなりナッキンコール
することは山ほどあれど何をする気にもならずに寝たり起きたり
よく眠りたりし朝のうれしさよ誰に話さん何を話さん