寒き日に酸素器かつぎ我が夫は確定申告せぬと出掛けぬ
雪の上にパン屑まけば争ひて鳥等は来たり食べつくすなり
病院の窓から見ゆるマンションのベランダに烏とまりけるかな
病院の夕食時の淋しさやあと寝るだけときめられてゐる
病院の消灯まぎは聞こえ来る拍子木の音人恋しかり
やせ細り指輪ぐるぐる廻転す結婚指輪中指に指す
今一度夫と行きたし多摩川の土手の櫻の満開時に
夜は字がよめなくなると母云いき我もしかなり今わかりけり
多摩川の土手へ乳母車押したりき今歩行器で我が身をはこぶ
わがそばに家族のたれかおらぬ時心淋しくなりし此の頃
お帰りと早くいいたしなかなかに帰り来ぬ子を待つ虫の秋