月日たち絵にのみ残る桃源郷父の描きし山里の村
東京で一番うましといふ蕎麦を夫は友と食べに行きたり
マージャンに夫は出掛け我一人昨夜(きぞ)の残りのふろふきを食ぶ
子の便りアイルランドの海辺にてアシカ見たりと感激記す
外国へ戻りゆく娘と多摩川でビルの合ひ間に冬の富士見る
子の土産なりし魔笛のオルゴールきけど会へるはいつの日のこと
挙式終はり帰る新幹線の窓右に左に満月うごく
いる筈はなきと思えど電話することもありけり淋しきときは
酒飲みて覚めたる後のさびしげな夫の表情心に滲みつ
les jours s'en vont je demeure
月日たち絵にのみ残る桃源郷父の描きし山里の村
東京で一番うましといふ蕎麦を夫は友と食べに行きたり
マージャンに夫は出掛け我一人昨夜(きぞ)の残りのふろふきを食ぶ
子の便りアイルランドの海辺にてアシカ見たりと感激記す
外国へ戻りゆく娘と多摩川でビルの合ひ間に冬の富士見る
子の土産なりし魔笛のオルゴールきけど会へるはいつの日のこと
挙式終はり帰る新幹線の窓右に左に満月うごく
いる筈はなきと思えど電話することもありけり淋しきときは
酒飲みて覚めたる後のさびしげな夫の表情心に滲みつ
ちゃんばらの相手に吾は格好の相手なりしか五歳の孫に
いづれそは忘れ去られる愛なれど今はひたすらいとし孫たち
オレンジののうぜんかずら華やかにゆらげど孫等遠く住みおり
旅半ばめまひす我を案じたる夫寝言で「参ったなあ」と
窓際に席占むる夫少年の如く下界に眼をこらしゐる
オランダの運河のともしびきらめきて宿の窓よりあかず眺むる
二頭馬車初めて乗りてふと思ふ大草原の小さな家を
旅の子がぐっすり眠る吾がベッド読書を止めて吾れは添い寝す
帰りたる子が寄越したるFAXを読むより先に先ずは抱きしむ
味噌汁に削り節をば入れるとき猫はすりよる吾の足元
折れ曲がり折れ曲がりつつ探したる子規庵のそばに不折家ありき
予期もせぬ人より賀状来るとき何やら嬉し得した如く
久々に会ひたる人にいくつかと年きかれたり吾も老いたり
子の遊びたわむえたりし縫いぐるみ忘れて行きしを吾は抱きしむ
雪降っているよと知らせに来る孫共にくらせる日はいつまでか
病む膝をいやせんとして幾度もわたしの温泉栗湯につかる
食べたしと何時も云ふなり吾が夫は冬のスイスの焼き栗の味
さそはれて友と行きたり多摩川の桜の下で缶ビールのむ
ルーブルで総ガラスなるピラミッド新しき美を吾は知りたり
モネの家浮世絵多く飾られてあるを見て知る日本の美を
エッフェル塔見上げてみればあまりにも東京タワーと変わらず思ふ
汽笛鳴る如きオルセー美術館名画も多し疲れも多し
巴里に行き一週間を泊まりたる宿のその名はモリエールなる
宿の窓開くるば名高きカペル橋一望に見るこの驚きや
吾が描きし父の似顔絵に喜びし父はしるしぬ児戯可愛ゆしと
駐車場越しに隣家の窓あかり深夜のオレンジ色は気になる
今年また母の形見の手袋をつかえることのうれしかりけり
大きなるおもちゃの時計もちてきて吾に起きよと孫は言ふなり
寝ころびてテレビを視れば寄り添いて共にテレビをみている幼
子と孫と共にくらせし楽しみを気づかず過ごししことをくやみぬ
排便のあとの始末も出来ざりし孫と別るる日も遠からじ
放牧の牛数頭が自動車の前をゆうゆうと横切りてゆく
草を噛む毎に鳴るなり放牧の牛の首より響く鈴の音
夫の顔少しみたくて屏風を僅かにずうらし吾は眠れり
てこずらす事多かれば疲れたる夫の顔に目脂すら見ゆ
いびきかき眠れる夫はうらやまし吾は起き出て牛乳をのむ
うまいもの宵に食へよと義母上の遺言なれば今も守りつ
ゴルフとは一期一会の楽しみか帰りし夫のこぼれる笑顔
雨のなか歩いて帰る淋しさにたった一駅電車に乗りぬ
孤独なる老女とばかり思ひ人赤子背負いて雨の道くる
靴修理待たされながらその店の明るさにふと救はれており
電車の戸閉まる間際に傘立てて無理やり出でよ愚かなる吾
まだ若き従弟を癌で失いしこと人生の残酷おぼゆ
のろのろと歩み吾をば追い越していく若き人やはり年だナ
このころは女いかつく肩はりて男なで肩ジャンパー姿
雨のなか歩いて帰る淋しさにたった一駅電車に乗りぬ
孤独なる老女とばかり思ひ人赤子背負いて雨の道くる
靴修理待たされながらその店の明るさにふと救はれており
電車の戸閉まる間際に傘立てて無理やり出でよ愚かなる吾
まだ若き従弟を癌で失いしこと人生の残酷おぼゆ
のろのろと歩み吾をば追い越していく若き人やはり年だナ
このころは女いかつく肩はりて男なで肩ジャンパー姿
紳士かと思へば淑女なりしなりシルバーシート男女の差なし
ものも言はず夫ゴルフにいきし日のこと思ひ出すなぜか今頃
はるけくも来るものかな氷見さして向かふすにて淋しくなりぬ
美しき人に席をばゆづられて吾はうれしき吾ははづかし
おばあちゃんチンチン電車いつ乗るの子供は約束忘れざるなり
有髪の尊師泪にむせびつつ説教したり叔母の葬儀に
たいこ橋背景にしてうつしたる昔の写真思ひ出したり
高岡の駅で別れぬ叔母いとこ淋しくなりてバナナを食べぬ
庭を見ておりし夫が真剣に梅の実七十つきしと云へり
人がみな飢えし時代に祖母われにおのれのめしを与へ給ひき
密教の儀式ならむかジャランジャラン正思影供(しょうみえく)にて打楽器響く
粉雪のしげき高野山夜の床熱き炬燵のありてうれしき
愛すればこと憎むなれ己が身に云ひきかせつつ今日も憎めり
何食はぬ顔して生きることできず追い詰められて苦しき日々よ
夜の明けることおそろしと思へり今日は何着て日をすごさんかと
眠れたか夫きくなり強き手が我が手にふるる時のかなしさ
爪切ってあげようかとのぞきこむ君はいつからそんなにやさしい
花めずる心は遠くなりにけりおどろおどろが吾が内に住む
おばあちゃんチューリップ咲いたと吾が手ひっく今朝見た花をまた見に行けり
旅行より帰りし人は晴れやかな笑顔で吾に挨拶をしぬ
あと何年生くるや知らずゴルフ狂許さむと吾思ふ十月
帰る子を待ちつつ米をとぎながら厨にある夜の如何に嬉しき
スイスより帰りたる子が家磨きこれでは毎年帰ると云へり
父の服のチョッキに書き給ふ光太郎の「美もっとも強し」祈りをり拝す